いろはにほへど

朝起きて本を読んで寝てます。

華文ミステリー『13・67』は読みごたえ抜群の大傑作!


連作短編の構成に凝らされた緻密な仕掛けにおどろくとともに、香港返還という歴史的事件を俯瞰しながら香港の悲哀を描き出した、『本格ミステリと社会派ミステリの融合』を史上最も体現しているといっても過言ではない小説が、ツイッターなどSNS上で大絶賛され話題となっていますね。


ここまで凄い凄いと言われている短編集ってあまりないような気がします。今回は、ミステリ史にその名を刻むこと間違いなしの大傑作華文ミステリー『13・67』をご紹介していきたいと思います。

作者『陳 浩基』さんについて

『13・67』の作者である『陳 浩基』さんは香港出身で「 島田荘司推理小説賞 」を受賞してデビュー。日本のミステリにも造詣が深く、愛読作家には、横溝正史、京極夏彦、清涼院流水さんを挙げているとのことです。


2015年の台北国際ブックフェア賞など複数の文学賞を受賞し世界12カ国から翻訳オファーを受け、各国で刊行中。台湾では新作の『網内人』も話題となっているそうですよ。

陳浩基(ちん こうき、サイモン・チェン、1975年 - )は香港の推理作家、SF作家、ホラー小説作家。男性。香港や台湾で作品を発表している。台湾推理作家協会の海外会員。(ウィキペディアより引用)


『13・67』の感想

現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)をたどる逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリー。どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点。(文藝春秋より引用)


警察小説と本格ミステリの融合具合が最高な一冊。香港を舞台に「天眼」の異名を持つ刑事クワンが超人的な推理能力を魅せ大活躍、息詰まる展開に興奮しっぱなしでした。


そんな名刑事の功績を逆年代記で描く連作短編。雨傘革命前夜の2013年から始まって、1967年の67暴動へと遡る形式を取り、香港の激動の歴史が描かれていて各時代の香港の雰囲気を間近に感じることができます。


各時代ごとに6つの事件の顛末が書かれているのですが、ひとつひとつのクオリティが1編ずつ本にしてもいいくらいとても高い!そして連作としての仕掛けは、最後の一文で再び第1話を再読する幸せを味合わせてくれます。最後の驚きは、映像ではなく文字だからこそな感動もあります。もう超おすすめの大傑作!もちろん翻訳にも違和感なく読み進められました。続いて各編毎にご紹介していきます。

『13・67』各編について

それではここから各編についてあらすじを含めてそれぞれご紹介していきたいと思います。タイトル横の年号は作中での時代背景です。

※できる限りネタバレのないようにしているつもりですが察しのいい方には微妙なところもあるかもしれませんのでご注意下さい。

1.黒と白のあいだの真実 (2013年)

昏睡した名探偵の脳波を使って謎解きをするという、異色のアイデア。末期ガンに侵され言葉を発することすら出来ない状態の名探偵・クワンは、病室で機械に繋がれています。


機械は画面と音で「Yes」・「No」の意志だけを伝え、この意思表示によって事件を解決しようと言うのです…。あらすじだけでもうワクワクが止まりません。病人に繋がれた機械が放つ音だけで安楽椅子探偵をするという設定も抜群に魅力的、どこに向かうのか見守っていると…二転三転また四転と前代未聞のギミックにはじめからいきなり感情の揺さぶられる衝撃です。

2.任侠のジレンマ (2003年)

そしてここからが実質のメイン、名探偵クワンの独壇場が始まります。正義感の塊であるロー警部、裏社会の黒幕・左漢強が率いる『洪義聯』というマフィアを捕まえたいと考えますが、その作戦に失敗してしまいます。


その矢先、左漢強が運営する芸能事務所所属のアイドル・唐穎が殺害されるシーンを撮影した動画が警察に届きます。ロー警部は、雪辱を遂げるため果敢な作戦を進めるのですが…その裏で動くクワンの本当の狙いとは?


いかにも香港らしいマフィアもの。刑事が巨悪に挑む格好良さはもう最高、前話では寝たきりだったクワンですが、この章では現役時代での凄さを思い知らされました。

3.クワンのいちばん長い日 (1997年)

クワンが警察を定年退職する前の最後の出勤日。部下たちが彼の退職を祝おうとした矢先に半年間鳴りを潜めていた連続硫酸爆弾事件がみたび起こります。さらに交通事故、マンション火災、そして8年前にクワンが捕らえた宿敵の脱走と次々と事件の一報が届きます。


同時並行型と思わせておきながら、クワンの推理でそれらがすべて真犯人の計略であったことが明らかになります。詰め込みすぎな事件を見事な構成力でまとめあげていて行き着く先が全く想像外!伏線がきちんと提示されていたことに後から気付き驚かされました。


ここまで3話は、いかにも本格ミステリらしい大胆なトリックと犯人との知恵比べがたっぷり楽しめます。

4.テミスの天秤 (1989年)

こちらは香港警察内部の対立を描いた、内幕もの。警察は指名手配犯の石本勝を挙げるため、雑居ビルに潜む犯人を監視するところから物語は始まります。万全の張り込み体制にも関わらず石の一味は突如としてビルから逃走を図ります。猪突猛進で知られる刑事は新米のローらとともに突入を決断。大勢の市民を巻き込んだ大惨事に発展してしまった激しい銃撃戦の裏に隠された、2重の犯罪をクワンが暴きます。


前半では、スピーディーな展開とまるで映画を小説化したようなアクション描写を思い切り楽しめます。そして後半はミステリーパート、大胆不敵な細部にわたる仕掛けがとにかく凄い!あまりに狡猾な犯人を更に上回るクワンも頼もしいばかりです。

5.借りた場所に (1977年)

短編が進むごとに社会派の一面、特に香港警察の汚職濃度が増していきます。借金返済のため香港に出稼ぎに来たグラハムら英国人一家。廉政公署で警察の腐敗を暴く彼のもとに、息子を誘拐したという脅迫電話が届きます。


犯人の指示に振り回される中、クワンは善悪の逆転するようなある不可解な行動を取ります…。誘拐犯対警察、緊迫感とスピード感があってコンゲームものとしてもやっぱり傑作!

6.借りた時間 (1967年)

世間では反英暴動が頻発し、香港警察は暴力と収賄で腐りきっていました。貧困にあえぎながらその日暮らしをする私は、隣人が爆弾テロを計画していることを知ります。知人の警官に事情を話すと、彼は一般人の私の知略を見込み、強引に捜査協力を依頼します…。


これまでの短編が三人称だったのに対して、突然本編の語り手は『私』となります。ほかの作品とはまた違った感覚で、こんな作風もできるのかと堪能していたのも束の間、ある人物の驚くべき姿が明かされて物語は幕となります。驚きが最大限の効力を発揮するこのラストにおける破壊力。全体をとおした上での、この終わりに満点以外考えられません。完璧です。


あとがき

古今東西の名作と肩を並べる完成度で今後、語り継がれること間違いなしの大傑作海外ミステリー『13・67』をご紹介してきました。


名探偵の人間離れした活躍を描く名探偵小説であると同時に、犯人の凄すぎる策略を描いた名犯人小説でもあって、さらに歴史小説のような重厚さや本格ミステリの緻密な仕掛けと、そこから描き出される香港の悲哀など様々な余韻で読者を楽しませてくれます。


華文ミステリの歴史的傑作といえる本作、評判を見て少しでも気になってる方は絶対に読む事をおすすめします!!


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