いろはにほへど

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第158回「直木賞」受賞作は、父親の愛情と苦悩を感じる『銀河鉄道の父』

日本文学振興会により第158回芥川賞・直木賞の結果が発表されましたね。大衆文学作品に贈られる直木賞を受賞したのは3回目の候補での受賞となった門井慶喜さんの「銀河鉄道の父」。宮沢賢治の生涯が質屋を営んでいた父親の政次郎の視点で描かれています。


※ 直木賞選考委員は、浅田次郎、伊集院静、北方謙三、桐野夏生、高村薫、林真理子、東野圭吾、宮城谷昌光、宮部みゆき(敬称略・五十音順)となっています。

第158回 直木賞受賞作『銀河鉄道の父』について

宮沢賢治は祖父の代から続く富裕な質屋に生まれた。家を継ぐべき長男だったが、賢治は学問の道を進み、理想を求め、創作に情熱を注いだ。勤勉、優秀な商人であり、地元の熱心な篤志家でもあった父・政次郎は、この息子にどう接するべきか、苦悩した―。生涯夢を追い続けた賢治と、父でありすぎた父政次郎との対立と慈愛の月日。 (講談社より引用)


宮沢賢治の生涯を、父である政次郎の視点から描いた作品。個人的にはこの作品で愚直なイメージのあった賢治像がガラリと変わりました。


言葉巧みに金の無心を重ね、仕事を持った後でもまだ無心を重ねる。絵空事の事業を語る。父親の脛をかじり倒す高等遊民の賢治を父政次郎が無骨ながらも温かく見つめているさまは印象的で、苛立ちと愛情の間を行ったりきたりしながらも結局いつも愛情が勝ってしまいます。父親の愛情と苦悩をたっぷりと感じることの出来る作品です。受賞おめでとうございます。

第158回『直木賞』ノミネート作品

今回は、30代〜50代の幅広い年齢層の作家さん達で男性1名、女性4名のノミネートとなっていました。

  • 彩瀬まる『くちなし』(文藝春秋)
  • 伊吹有喜『彼方の友へ』(実業之日本社)
  • 門井慶喜『銀河鉄道の父』(講談社)
  • 澤田瞳子『火定』(PHP研究所)
  • 藤崎彩織『ふたご』(文藝春秋)

それでは、それぞれご紹介していきたいと思います。表記はタイトル、作家名、あらすじ、感想の順になっています。

くちなし/彩瀬まる

別れた愛人の左腕と暮らす。運命の相手の身体には、自分にだけ見える花が咲く。獣になった女は、愛する者を頭から食らう。繊細に紡がれる、七編の傑作短編集。(文藝春秋より引用)


彩瀬まるさんの最新作品集、不思議な設定の7つの愛の物語。斬新な世界観で、普通の現代小説だと思って読み進めると全く異世界の話だと気づいて驚かされます。


「じゃあ、腕がいい」不倫相手から別れの際に腕を貰い愛でる女性が主人公の『くちなし』など、人間の生態丸ごと摩訶不思議な設定が常識と化しているという幻想的な世界観の合間に『愛のスカート』や『茄子とゴーヤ』のような普通の日常の物語が挟まれているので、それすら非日常の夢物語に思えてきます。どの短編も愛の本質を探るようなお話で、軽やかな読み心地ですが余韻の残る文章でした。

彼方の友へ/伊吹有喜

平成の老人施設でまどろむ佐倉波津子に、赤いリボンで結ばれた小さな箱が手渡された。「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」。そう印刷された可憐な箱は、70余年の歳月をかけて届けられたものだった。昭和初期から現在へ。雑誌の附録に秘められた想いとは―。(実業之日本社より引用)


雑誌「乙女の友」が大好きだった波津子は、昭和初期から戦中、戦後にかけて憧れの有賀主筆の元で、雑誌作りに携わるようになります。


戦時中人々が苦しんでいた最中にも「乙女の友」を届けようと仲間と奮闘した日々、切ない恋、めまぐるしい激動の時代と波津子の成長が描かれていて読み応え充分。そしてラストでは不覚にも号泣、激動の時代を生きる彼女達と、少しだけ同じ夢を見ることができました。

火定 /澤田瞳子

時は天平。藤原四兄弟をはじめ、寧楽の人々を死に至らしめた天然痘。疫病の蔓延を食い止めようとする医師たちと、偽りの神を祀り上げて混乱に乗じる者たち―。生と死の狭間で繰り広げられる壮大な人間絵巻。( PHP研究所 より引用)


天然痘に襲われた平城京で奮闘する医師たちの姿を描く『火定』。重いタイトルに、目を背けたくなる程怖くてきつい描写。市井の人々や医師らの行動が、目の前にあるかのように迫ってきますし、病に翻弄される人々の描写が怖いほどリアル…。


流言飛語が民衆を惑わし、罪もない人が殺されていく中、どん底で救済を忘れなかった医師たちにより光が見いだされる最後は感動なしには読めませんでした。人間の強さと弱さ、そして多くの犠牲の上での医学の進歩、たくさんの事がずっしりと心に残る作品です。

ふたご/藤崎彩織

大切な人を大切にすることが、こんなに苦しいなんて――。彼は私の人生の破壊者であり想造者だった。異彩の少年に導かれた少女。その苦悩の先に見つけた確かな光。(文藝春秋より引用)


SEKAI NO OWARIのSaoriさんによる話題の初小説『ふたご』は、大好きな彼との、友達以上恋人未満の関係を綴ったお話。テレビで多くを語らない印象の彼女の中に溢れる言葉…読み終わりに幸せな気持ちになれる楽い本です。


自分だけを見つめて欲しいという恋心と手の届かない方へと行ってしまいそうな彼の気持ちに心が揺れながら、お互いに成長していく青春小説。一生懸命さとか初々しさみたいなものが伝わってきます。誰もが事実だろうと思うほどリアルな物語を書くということは、とてつもない勇気やエネルギーが必要だったと思います。魂を削って書き上げたということが痛いほど伝わってくる一冊。

あとがき

第158回『直木賞』受賞作品・ノミネート作品についてご紹介しました。どれも本当に素敵な作品ばかりでしたので気になる作品が見つかれば是非読んでみて下さいね!