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このミステリーがすごい!2018年版【海外編】ベスト10作品の紹介


このミステリーがすごい!2018年版が発売されましたね。毎年、宝島社から出版されている、国内・海外の今もっとも面白いミステリーが集結した『このミス』。今回は海外編の上位10作品についてご紹介していきたいと思います。

【海外篇】このミステリーがすごい 2018年版ベスト10作品の紹介


それではこのミステリーがすごい!2018年版で発表された海外作品ベスト10作品を思う存分堪能してくださいね!表記はタイトル、あらすじ、感想の順になっています。それでは第10位から順にご紹介していきたいと思います。国内編ベスト10入り作品についてはこちら。

このミステリーがすごい!2018年版【国内編】ベスト10作品


10位 シンパサイザー

「私はスパイです。冬眠中の諜報員であり、秘密工作員。二つの顔を持つ男――」捕らえられた北ベトナムのスパイは、独房で告白をつづる。息もつかせぬスパイ小説にして皮肉に満ちた文芸長篇。( 早川書房 より引用)


第10位は、『シンパサイザー』。なんとエドガー賞とピュリッツァー賞W受賞作です。日本でいえば芥川賞と直木賞を同時にとったような凄い作品。サイゴン陥落で、南ベトナムの人々と共にアメリカに脱出した北ベトナムのスパイによる告白の形で、ベトナム難民が直面した困難や矛盾が語られていきます。


主人公はフランス人神父の父とベトナム人の母を持ち、完全に属する場所がないので、南北ベトナム、アメリカ、民主主義、共産主義とあらゆるものに共鳴を受けるのですが、全面的に従属はできません。どこにも属することが許されない主人公の設定が巧みで効果的。緊迫感溢れる王道スパイ小説ながら、格調高く悲しい文学作品となっています。エンタメとしての軽いミステリーを期待すると痛い目を見そう…。

9位 ゴーストマン 消滅遊戯

恩義のある友からSOSが届いた。すべてのトラブルを解決し、彼女を死地から救い出す――それが私の仕事だ。 南シナ海で行なわれたサファイア強奪は、指揮をとる犯罪者アンジェラにとって大きなトラブルをもたらした。強奪の結果をマカオで待つ彼女のもとに届けられたのは部下の生首とサファイアが一粒。そしてメッセージ――ブツを返せば残りのサファイアは返す。襲った密輸船にはサファイア以外のものも積まれていたのだ。はるかに価値があり、はるかに危険なブツが。この危機を切り抜けるには信頼できる相棒が要る。そこで彼女は私に連絡をよこしたのだ。私は世界でも指折りの強盗だ。だが私に犯罪のすべてを教えたのがアンジェラだった。彼女には恩義がある。だから私は即座にマカオへ飛ぶ。そこで待つのは冷血の殺し屋ローレンスと、私たちの退路を断つ中国マフィア。ゴーストマン師弟コンビが暗黒街で知略を尽くす。(文藝春秋より引用)


第9位『ゴーストマン 消滅遊戯』は、マカオ、香港を舞台に犯罪のプロであるゴーストマンが謎の襲撃者と闘うお話。


強盗団の師弟であるアンジェラとゴーストマン、謎の殺し屋、中国マフィアの三つ巴の戦いが、スタイリッシュな文章で面白犯罪トリビアを織り交ぜながら綴られています。前作『ゴーストマン 時限紙幣』と共に楽しませてくれた著者ロジャー・ホッブズさん死去のため、もう新作が読めないことが残念です。

8位 その犬歩むところ

ギヴ。それがその犬の名だ。彼は檻を食い破り、傷だらけで、たったひとり山道を歩いていた。彼はどこから来たのか。何を見てきたのか…。この世界の罪と悲しみに立ち向かった男たち女たちと、そこに静かに寄り添っていた気高い犬の物語。『音もなく少女は』『神は銃弾』の名匠が犬への愛をこめて描く唯一無二の長編小説。(文藝春秋より引用)


そして8位は、ボストン テラン『その犬の歩むところ』。GIV(ギヴ)という名の犬と出会った人々の物語です。近現代アメリカの精神的構造が、人間ではない犬が主人公になることで純粋に描かれている良作。実際に犬を飼っていたからか余計に響きました。


善良な人、傷ついた人、傷つけられた人、傷つけずにはいられない人、自然の猛威。苛酷な運命に翻弄されても決して侵される事のない、ギヴの無償の愛と優しさが、出会う人々を癒します。真っ直ぐに人間性善説的な作品ですが、犬を通して描く事で説得力が増しているように思います。とても気持ちの良い作品。

7位 渇きと偽り

「ルークは嘘をついた。きみも嘘をついた」意味深な手紙を受けとった連邦警察官フォークは二十年ぶりに故郷を訪れる。妻子を撃ち、自殺したとされる旧友ルークの葬儀に出るためだ。彼は手紙の送り主であるルークの両親から、息子の死の真相を突き止めてくれと頼まれる。生まれ育った町での捜査は、フォークの脳裏に苦い記憶を呼び起こしていく。かつて彼がここを離れる原因となった、ある事件の記憶を…。灼熱の太陽にあえぐ干魃の町で、人々が隠してきた過去と秘密が交錯する。オーストラリア発のフーダニット。(早川書房より引用)


第7位の『渇きと偽り』幼馴染が故郷の町で一家心中した。その死の真相を探ると共に、20年前に主人公が町を追われるきっかけになった事件が語られます。


海外のミステリーではたまに見るパターンですが、田舎の閉塞的な嫌らしさと干ばつという極限状態から来る心理描写や集団心理に引き込まれます。謎解きと言うよりも人間ドラマがメインとなっていますがかなり面白い!この本がデビュー作とは思えない力量です。

6位 ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者

稀代の犯罪者ジャック・グラス。彼が起こす犯罪は、不可能にして宇宙的。彼はいかにして殺人者となり、そして伝説の男となったのか? 絶対に解けるはずのない謎解きに、ミステリマニアの変人令嬢ダイアナが挑むのだが……!? 黄金時代の香り漂うSFミステリ。(早川書房より引用)


第6位『ジャック・グラス伝』は、SF+ミステリーの読み味。人口数兆に達した人類は太陽系全域に居住し、ウラノフ一族が独裁により民衆を厳しく統制していた。革命家のジャック・グラスがウラノフに対抗すべく暗躍する物語。


第一部はSF要素が強く、ミステリー要素が増えるのは、第二部以降。第三部では信じられないくらいセンチメンタルなロマンスに移行します。ストーリー運びに飛躍があり過ぎる感じもしましたが、何でもありのSF設定をしっかり活かしたダイナミックで楽しい作品。

5位 黒い睡蓮

モネの“睡蓮”で有名な村で発生した、奇妙な殺人事件。殺された眼科医は女好きで、絵画のコレクターでもあった。動機は愛憎絡み、あるいは絵画取引きに関する怨恨なのか。事件を担当するセレナック警部は、眼科医が言い寄っていた美貌の女教師に話を聞くうちに、彼女に心惹かれていく。一方、村では風変りな老女が徘徊し…。『彼女のいない飛行機』で人気を博した著者の傑作ミステリ。(集英社文庫より引用)


第5位『黒い睡蓮』は、巧妙な仕掛けのあるフレンチミステリー。ばらばらに思われていた事柄が一本の線に繋がる感の味わえる作品です。


モネの睡蓮で有名な村ジヴェルニーで起こった殺人事件を軸に物語は進んでいきます。モネの話もたくさん出てくるので教養小説的な面もありますが、そんなこと全てが吹き飛ぶくらいの破壊力…読後感もとても良かったです。モネについて簡単な知識を持ったうえで読んむとより親しみやすいですよ。

4位 湖畔荘

ロンドン警視庁の女性刑事が、女児を置き去りにして母親が失踪というネグレクト事件に関わり問題を起こし、謹慎中にコーンウォールの祖父の家近くで、打ち捨てられた屋敷?湖畔荘を偶然発見する。そして70年前にそこで赤ん坊が消える事件があり、迷宮入りになっていると知る。興味を抱いた刑事は謎の赤ん坊消失事件を調べ始めた。かつてそこで何があったのか? 仕事上の失敗と自身の問題と70年前の事件が交錯し、謎は深まる!(東京創元社より引用)


4位の『湖畔荘』は、1930年代と2000年代のイギリスを舞台にしたミステリー。湖畔荘という屋敷で、1933年の夏祭りの夜に起こった幼児失踪事件をめぐる物語です。


過去と現代が目まぐるしく替わり、回想シーンも多いので時間軸がグラグラ、過去と現在を行き来する物語は数多いですが、本作ではさらにそれぞれが複数の視点にコロコロと入れ替わります。そのため物語はじりじりとしか進まず、それがじれったくて先が知りたくてページを捲る手が止まりませんでした。1つずつ潰して行く推理、そして最後はグランドフィナーレ…読後はすばらしく気持ちがいい!とても素敵な作品です!

3位 東の果て、夜へ

十五歳の少年イーストは生まれて初めてLAを出た。これから人を殺しに行くのだ。標的の裏切り者は遠く離れたウィスコンシンに旅行中で、法廷に立つため来週戻ってくる。その前に始末しろという所属組織の命令だった。イーストに同行するのは、殺し屋である不仲の弟をはじめとした少年たち。崩壊の予感と軋轢を抱えながら、二〇〇〇マイルに及ぶ長い旅が始まる。孤独なる魂の彷徨を描いて絶賛を浴びたクライム・ノヴェル。
(早川書房より引用)


第3位は、黒人少年達のギクシャクとしたロードノベル『東の果て、夜へ』です。LAで麻薬斡旋所見張り役をしていたイーストは、警察の手入れが切っ掛けで、仲間3人と共に2千マイルも東のウィスコンシン州で判事殺害を指示され向かいます…。


あとにした西は振り返らずに、光景がただ流れていきます。無口で普段子供らしい所を見せないだけに、初めて見る雄大な景色に心を奪われる様子や、一人になって抑えきれず泣きだす姿など、イーストが稀に見せる15歳の少年らしさが痛切。イースト目線から離れるある場面もとても印象的でした。これは映像にしたら映えそう!

2位 13・67

現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)をたどる逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリー。どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点。本格ミステリーとしても傑作だが、雨傘革命(14年)を経た今、67年の左派勢力(中国側)による反英暴動から中国返還など、香港社会の節目ごとに物語を配する構成により、市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデェンティティを問う社会派ミステリーとしても読み応え十分。 (文藝春秋より引用)


第2位は、大傑作との呼び声も高い全6編からなる本格ミステリ連作短編集『13・67』。香港の警察官クワンを主人公にして、2013年を舞台にしたストーリーから徐々に遡って行き最後は1967年と歴史をさかのぼる形で書かれています。上質な本格ミステリとしても、変わり行く香港社会を描いた小説としても、主人公の数奇な一生を辿る物語としても、とにかく面白い!あらゆるミステリージャンルの垣根を越えた傑作『13・67』についてはこちらで詳しくご紹介しています。

華文ミステリー『13・67』は読みごたえ抜群の大傑作!


1位 フロスト始末

今宵も人手不足のデントン署において、運悪く署に居合わせたフロスト警部は、強姦・脅迫・失踪と、次々起こる厄介な事件をまとめて担当させられる。警部がそれらの捜査に追われている裏で、マレット署長は新たに着任したスキナー主任警部と組み、フロストをよその署に異動させようと企んでいた…。史上最大のピンチに陥った警部の苦闘を描く、超人気警察小説シリーズ最終作。(東京創元社より引用)


強豪を抑えて堂々の第1位は、『フロスト始末』です。こちらシリーズ最終章。下品で口は悪いし、立て続けに事件は起こるのにさっぱり解決の目途も立たない…決して敏腕でも正義漢でもないフロスト警部。


今作、デントンへやって来たのは最低最悪とも言うべき主任警部で、フロストはこれまでのツケを払わされるかのごとくいきなりのピンチ、デントン署から追放されるかもという危機が冒頭からちらつきます。そんな中、誘拐、連続少女強姦殺人、脅迫、バラバラ死体と次々に起こる大小様々な事件を抱えて完全にキャパオーバーとなりヘマばかり。


窮地に次ぐ窮地をなんとかしのぎきり、最後の最後では大逆転、やっぱりフロストはこうでなくちゃ、とニヤリとしてしまいます。いろんな事件が脈絡なく発生しながら、なんとなく一つの作品にまとまってしまう独特の作風にあらためて感心しました。著者死去とのことで続編が無いのが本当に残念です。

あとがき

このミステリーがすごい!2018年版【海外編】ベスト10作品をご紹介しました。うーん、どれもベスト10入り納得の傑作揃いでしたね。ちなみに海外11位以降は、

11位 コードネーム・ヴェリティ
12位 ハティの最期の舞台
13位 暗殺者の飛躍
14位 約束
15位 湖の男
16位 月明かりの男
17位 スティール・キス
18位 書架の探偵
18位 ソニア・ウェイワードの帰還
20位 悪魔の星
20位 眠る狼

となっています。気になる作品が見つかれば是非読んでみて下さいね!

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