このミステリーがすごい!2019年版が発売されましたね。毎年、宝島社から出版されている、国内・海外の今もっとも面白いミステリーを読書のプロが選んだ年末恒例『このミス』。今年はどんな作品がランクインしているのでしょうか?
それから、今年はこのミス創刊30周年ということで、歴代1位作品の中から『キング・オブ・キングス』を選定したランキングブックも付いてますよ!それでは早速、2019年版このミス 国内編の上位10作品についてご紹介していきたいと思います。
このミステリーがすごい 2019年版ベスト10作品の紹介
それではこのミステリーがすごい!2019年版で発表されたベスト10作品をご紹介していきます。表記はタイトル、あらすじ、感想の順になっています。2018年版の作品についてはこちら。
10位 火のないところに煙は
「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の「私」は、かつての凄惨な体験を振り返る。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。「私」は、事件を小説として発表することで情報を集めようとするが―。( 新潮社 より引用)
第10位は、芦沢 央さんの短編怪談集『火のないところに煙は』です。テレビ等で取り上げられて話題にもなっていましたよね。
書き出しは実話に感じてしまう程のリアリティ。……え?これ怖すぎません?ゾクゾクとする怪談としての恐怖が常につきまといますが、ミステリーとしてのワクワク感もあるのでグングン読み進めてしまいます。そして連作らしい最終話はお見事の一言。とても綺麗なラストですが恐怖はそのまんま残るという斬新な読後感でした。
10位 グラスバードは還らない
隠れる場所がないガラス張りの迷宮で、連続殺人犯はどこへ消えたのか?犯人と凶器が消えた不可能犯罪の謎に、マリアと漣が挑む!( 東京創元社 より引用)
同率の第10位、市川 憂人さんによる『グラスバードは還らない』は、ジェリーフィッシュは凍らない、ブルーローズは眠らないに続く『らない』シリーズの3作目ですね。
緊迫感ある爆破されたビルからの脱出劇、そしてすべての壁が透明で隠れる場所のない閉鎖空間での連続殺人。この同時平行で描かれるシチュエーションにハラハラ・ワクワクしながら引き込まれていきました。今作のトリックには賛否ありそうな気もしますがこのシリーズはやっぱり面白い!
9位 凍てつく太陽
第9位は、葉真中 顕さんの『凍てつく太陽』。まずはあらすじから。
昭和二十年―終戦間際の北海道・室蘭。逼迫した戦況を一変させるという陸軍の軍事機密「カンナカムイ」をめぐり、軍需工場の関係者が次々と毒殺される。アイヌ出身の特高刑事・日崎八尋は、「拷問王」の異名を持つ先輩刑事の三影らとともに捜査に加わることになるが、事件の背後で暗躍する者たちに翻弄されてゆく。陰謀渦巻く北の大地で、八尋は特高刑事としての「己の使命」を全うできるのか―。( 東京創元社より引用)
終戦間際と時代背景は重ため。舞台は北海道室蘭、そして主人公は特高警察官。
こちらの作品、序盤こそ確かに重苦しい空気がながれていますが、その先は予想外の展開の連続で500ページ以上もあるのにスラスラと読む手が止まりませんでした。民族を超えたふれあいに胸が熱くなりつつ、ラストはいくつかのどんでん返しも決まって、読み終わってみればスッキリ大満足の一冊でした。個人的にはもう少し上位を予想していたんですけどね。納得のランクインです!
8位 東京輪舞
かつて田中角栄邸を警備していた警察官・砂田修作は、公安へと異動し、時代を賑わす数々の事件と関わっていくことになる。ロッキード、東芝COCOM、ソ連崩壊、地下鉄サリン、長官狙撃…。それらの事件には、警察内の様々な思惑、腐敗、外部からの圧力などが複雑に絡み合っていた――。(小学館より引用)
そして8位の『東京輪舞』は、昭和・平成に実際に起きた事件をモチーフに、事件の裏側を公安警察官の視点から描いた連作短編集。
歴史的な重大事件を実名を挙げて題材にしているので、まるでノンフィクションかのような感覚。事件をリアルタイムでみている読者なら、より興味深く読めると思います。いつもの月村さんらしいスカッとする感じこそなかったのですが、史実とフィクションが交錯する面白さに大満足でした。
7位 雪の階
昭和十年、春。数えで二十歳、女子学習院に通う笹宮惟佐子は、遺体で見つかった親友・寿子の死の真相を追い始める。調査を頼まれた新米カメラマンの牧村千代子は、寿子の足取りを辿り、東北本線に乗り込んだ―。( 中央公論新社 より引用)
第7位は、奥泉 光さんの『雪の階』。慣れてくると癖になる、かなり独特な文体での大長編ミステリーです。
二・二六事件前夜に起きた無理心中の謎解きを中心にストーリーは進んでいきますが、当時の上流階級の生活ぶりや、千代子とその恋人のコミカルなやり取り、魅力的な登場人物たちなど読みどころがたくさん!時代背景をよく知らない方でもしっかり満足できると思いますよ。
6位 碆霊の如き祀るもの
刀城言耶が祖父江偲らとやって来たのは海と断崖に閉ざされた犢幽村。そこで次々と起こる不可解な殺人事件は、村に伝わる「怪談」をなぞるかのような様相だった。刀城言耶は「怪談」の解釈の奥にある事件の真相に迫るのだが……(原書房より引用)
第6位は、三津田 信三さんの6年ぶりとなる刀城言耶シリーズ『碆霊の如き祀るもの 』こちらもホラー仕立てのミステリーです。
舞台は4つの不気味な怪談が残る村。閉ざされた村で、その怪談を連想させるような連続殺人事件が起こります。クオリティの高いホラー部分と、主人公が仮説の推理を組み立てては壊しを繰り返し、畳み掛けるように真相に迫っていくのがこのシリーズの見どころ。ミステリーとホラーの融合はなかなか癖になりますよ。
5位 宝島
英雄を失った島に、新たな魂が立ち上がる。固い絆で結ばれた三人の幼馴染み、グスク、レイ、ヤマコ。生きるとは走ること、抗うこと、そして想い続けることだった。少年少女は警官になり、教師になり、テロリストになり―同じ夢に向かった。( KADOKAWAより引用)
第5位『宝島』は、戦後沖縄の話。幼なじみの3人を中心に、沖縄が日本に返還されるまでのそれぞれが語られます。
全てのページから沖縄の人々の痛みが生々しく感じられるとてつもなく重い話なのですが、魅力的な登場人物たちの熱量に引き込まれ、さらに、やさしくユーモラスな語り口で綴られているのでとても読みやすい!心に刺さる傑作です。
4位 沈黙のパレード
突然行方不明になった町の人気娘が、数年後に遺体となって発見された。容疑者は、かつて草薙が担当した少女殺害事件で無罪となった男。だが今回も証拠不十分で釈放されてしまう。さらにその男が堂々と遺族たちの前に現れたことで、町全体を憎悪と義憤の空気が覆う。秋祭りのパレード当日、復讐劇はいかにして遂げられたのか。殺害方法は?アリバイトリックは?超難問に突き当たった草薙は、アメリカ帰りの湯川に助けを求める。( 文藝春秋 より引用)
第4位は、東野 圭吾さんの『沈黙のパレード』ガリレオシリーズの最新作ですね。今作もさすが東野圭吾さんだと思える仕上がりでした。
歌手を目指していた少女が失踪→3年後に遺体で発見されます。犯人と思われる男は、何もしゃべらず証拠不十分となり釈放されて…。真相は徐々に明かされていくのですが、これでもか、これでもかと期待を裏切らないどんでん返しの連続…いやー面白かったなぁ。それから、これまで不思議な現象の解明にしか興味のなかった湯川先生のキャラにも変化が…必読です!
3位 錆びた滑車
女探偵・葉村晶は尾行していた老女・石和梅子と青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれる。ミツエの持つ古い木造アパートに移り住むことになった晶に、交通事故で重傷を負い、記憶を失ったミツエの孫ヒロトは、なぜ自分がその場所にいたのか調べてほしいと依頼する―。大人気、タフで不運な女探偵・葉村晶シリーズ。( 文藝春秋 より引用)
第3位は、不運な女探偵・葉村シリーズの最新刊『錆びた滑車』。トラブル引き寄せ体質の葉村。不運にも次から次へと巻き込まれていく厄介ごとを、嫌々ながらも辛抱強く片付けていくとても面白い作品。
シリーズを通していつも怪我ばかりしている主人公ですが、最後には全ての謎を気持ち良く解き明かしてくれますよ。 彼女にはこれからも体がもつかぎり頑張ってもらいたいです!
2位 ベルリンは晴れているか
1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4ヵ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅立つ。しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり――ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。( 筑摩書房 より引用)
第2位は、深緑 野分さんの『ベルリンは晴れているか』。第二次世界大戦直後のドイツが舞台。少女・アウグステが恩人の死を伝える為、その甥の行方を探すたった2日間の話です。
当時のベルリンの様子や空気感がとてつもなく丁寧に描かれていて、まるで自分がそこにいるような臨場感。重厚な内容の物語なんですがミステリー仕立てになっているのもあり読みやすい作品。翻訳モノなのかな?と錯覚させる文体も良いですね。
1位 それまでの明日
渡辺探偵事務所の沢崎のもとに望月皓一と名乗る金融会社の支店長が現われ、赤坂の料亭の女将の身辺調査をしてくれという。沢崎が調べると女将は去年亡くなっていた。顔立ちの似た妹が跡を継いでいるというが、調査の対象は女将なのか、それとも妹か? しかし当の依頼人が忽然と姿を消し、沢崎はいつしか金融絡みの事件の渦中に。( 早川書房 より引用)
そして堂々の第1位は原 りょうさん14年ぶりの新作『それまでの明日』。先日の「ミステリが読みたい!」でも1位でしたのでファンの方には嬉しい結果となりましたね。
シリーズものですが単独でもしっかり楽しめるハードボイルドな探偵小説。携帯を持たず、タバコを吸いながらかっこ良過ぎる会話で捜査する探偵。今の時代から見ると違和感もありますが、これが読み進めていくうち病みつきに。ドキドキハラハラ感は少なめですが、癖のある登場人物達による独特な雰囲気を楽しめる作品です。
あとがき
このミステリーがすごい!2019年版【国内編】のベスト10作品をご紹介しました。国内12位以降は、
12位 漂砂の塔 大沢在昌
13位 スケルトン・キー 道尾秀介
14位 インド倶楽部の謎 有栖川有栖
15位 ネクスト・ギグ 鵜林伸也
15位 アリバイ崩し承ります 大山誠一郎
15位 叙述トリック短編集 似鳥鶏
18位 蒼き山嶺 馳星周
19位 探偵AIのリアル・ディープラーニング 早坂吝
19位 破滅の王 上田早夕里
となっていましたよ。今回は、謎解きそのものより、ミステリーをスパイスとして物語を楽しむタイプの作品が多くラインナップされている気がしました。とはいえやっぱり面白い作品ばかり!気になる作品が見つかれば是非読んでみて下さいね。